【ミライロしごと図鑑】株式会社カムラック

次世代を担う学生が、福岡という枠組みに囚われずに面白い取り組みに挑戦する企業を取材し、福岡商工会議所の会報誌「福岡商工会議所NEWS」の記事を作成する企画「ミライロしごと図鑑」。

本メディアでは会報誌にはおさまらなかった写真、インタビューを通して学生が得た気づき
を紹介します。

3回目となる今回(会報誌6月号)は、株式会社カムラックさんを取材しました!

今月の取材先:株式会社 カムラックとは?

障がい者の雇用増大、障がい者の自立支援を目的に、ホームページ制作業務、アプリケーションやシステムのテスター業務などを行う障がい者支援事業所。障がい者の皆さんの働く場や将来を切り開くべく、これからの時代に対応した職場環境創りに取り組んでいる。

今回取材に協力して頂いた方)株式会社カムラック 代表取締役 賀村 研さん


「福祉の非常識はビジネスの常識。誰もが働ける社会を」

賀村さんは会社を立ち上げる前、どのようなことをしていらっしゃいましたか?

元々、就職先は建設系の企業で福岡勤務でした。そこで4年経った時、これからはITが来る、と思い、転職に踏み切りました。当時は、マイクロソフトのビルゲイツさん、ソフトバンクの孫さんといった名が一般的にも浸透しはじめた時代でした。
そして、アスキー創設者の西さんが顧問をしている会社で、ベンチャーが立ち上がったと聞きました。私自身はメールもやったことがありませんでしたが、その会社へ行く!と丁稚奉公(でっちぼうこう)でもいい気持ちで入社。実際は給料がもらえましたけどね。
入社当時は自分の給料も稼げない営業マンでしたが、会社の成長とともに全国の上場企業がその会社のソフトを導入し始めた時代で、 最終的には営業の責任者となりました。

そこから、どうして障がい者の支援事業を始めたのですか?

30代後半、私は、会社のある東京と、妻のいる福岡での二重生活をしていました。東京では、営業としてひとつ成し遂げたと感じていたので、第二の人生として、家族のいる福岡に戻ろうと決めました。
そこで、ITの仕事で独立するよりも、地元のITの会社に入って、自分がやってきたものを延長線でしていこうと考えたのです。
40歳近くなり、何か社会のためにいいことをしたいという想いも湧いて、今やっている仕事で地域貢献できることはなかろうかと考えました。その想いからプロジェクトは生まれています。自分たちの給料が、例えば5、60万円とすると、ITの仕事では、5、60万円の給料の人がする必要のない仕事がたくさんあります。プログラマーやITの世界だったら、お客さんに、こういうものをつくりましょう、こういう設計をしましょうと提案する上流工程。その中で大量のデータを入力する作業など、時間がかかるし量の多い仕事。
こういう作業って、大体、月給で換算すると、15~20万円くらいになります。この仕事がどこに流れていたかというと、中国やタイ、ベトナムなどの海外なのです。他にも、ページが大量にあるホームページの引っ越し作業。引っ越し作業を終えたホームページを見てみると、漢字が違う意味で使われていたり、ニュアンスが少し変わっていたりすることが多々ありました。

だからまた日本のお金で修正を加えます。結果、海外に外注しても、総合的にみるとそんなに安くないわけです。それに、海外の人件費の単価も上がってきていますしね。
だったら、海外に流れているお金を日本で使ったほうがいいではないですか。では、この時間のかかる量が多い仕事を誰にしてもらうのか? 仕事はたくさんあるのだけど、やる人がいない。単純な仕事だけでなく上流工程の仕事も増えている。
そう考えたときに、日本の商品品質を世界に知らしめた人達、今の高齢者の世代で、ITでいうとベテランプログラマー、エンジニアの人達に戦力になってもらえないだろうかと思ったのです。工程や品質のチェックをしてもらったり、若い人材を育ててもらったり。さらに、プログラミングができる子育て中の女性の方に、働ける時間の中で仕事をしてもらうことはできないかと考えました。なんでもフルタイムにこだわらなくても良いのです。ITでそういう柔軟な働き方ができる世の中を作ろうという第一構想があって、そこに、障がい者の皆さんもいるよと聞きました。

ようやく本題に入るのですが、ITの仕事を覚えたら、障がい者の人たちにもできるのではと思ったのです。
そう思ってやってみたら、その通りでした。
それで福岡で、ITを使ったA型事業所のロールモデルを作ろうと思ったのが、カムラックのスタートです。
本を出版したり、SNSで情報発信したり、メディアに取り上げられたりしているので、今でも全国から、当事者の方や企業さん、福祉関係の方たちが見学に訪れています。

事業をはじめていく上で、どのような工夫をなさいましたか?

企業を巻き込みました。グループ企業で株式会社 else if( エルスイフ)というソフトウェア開発会社があるのですが、ここには仕事に対する情熱と技術のあるプロフェッショナルな人たちが集まっています。それがあればどんな方でも働ける会社を目指しています。ベテランの方や子育て中のお母さんたちも働いているし、カムラックの障がい者社員も働いています。

私は株主であり、取締役会長でもありますが、else ifと一緒に仕事をすることで、カムラックに足りない主導力のようなものが生まれます。
他にも、会計の仕分けなどの仕事をしています。今、大手の会計監査法人とお付き合いしているのですが、難しい仕事をする高給な人たちがする必要のないことを、私らが請け負うようになったのです。
本来なら顧問の社外CFO 的な動きをしなければならないのに、領収証の仕分があるので顧問先に行けないという人たちがいて、だったらその仕事を奪っちゃえ、と。領収書の仕分けを教えてくれればできるようにするから、と。
あとカムラックって、実は芸能事務所のお手伝いもしているのですよ。
運営をする方は、その仕事の他に、毎日のようにグッズの発注や在庫の管理、生写真の編集などの雑務も抱えています。ただそれがなければ運営スタッフはもっと運営に精を出せるでしょう。だから取っちゃえ、と。それで、運営スタッフは企画を練ったり、営業したり、走り回ったり、運営に打ち込めるのです。

こういうのが企業と障がい者の本来の付き合い方だと私は考えます。
体制が整っていない中で、いきなり障がい者を採用しても長続きはしません。
私は初めから障がい者の支援事業を始めようと思ったわけではなく、ビジネスの感覚で、皆さんの「困った」を解決するにはどうしたらいいのかを考え、多様な働き方を考えた結果、障がい者の支援事業につながったのです。私がしていることは、福祉の業界でいえば非常識ですが、ビジネス、商売という観点で言えば、常識だと思います。ここの違いを変えていけば、そんなに大変なことではありません。

いろいろな方がここで働いているのですね。

例えば、20 年近く引きこもっていたけど、プログラミングに近い形で、ゲームの構造に興味がある社員がいます。だんだん自信がついてきて、今となっては、カムラックからelse if への「施設外就労」という形で働いているメンバーの中で、トップにいます。負け癖がついていても、カムラックで仕事をすることで自信がついてきます。「自分が作ったものを、みんなに見てもらえる」という、小さな成功体験を積み重ねていけるのです。

彼らは障害と上手に向き合いながら、仕事に取り組んでいます。そして、カムラックの技術スタッフは彼らに思いっきり仕事をさせて、何かに躓いたら、福祉スタッフが全力でフォローするような体制をとっています。この形ができるのは、私が、障がい者を障がい者と思っていない、戦力、と思っているからです。うちの社員たちは本当に凄いのですから。

最後に今後の展開を教えてください。

企業の障がい者雇用の推進に力を入れていきたいです。私らの事例をもとに、「障がい者の人達は、できますよ」ということを伝えることで、地域をより活性化させたい。仕事のパートナーを増やしていけるようになりたいです。

賀村さんの培った技術や経験があって、この事業所が成り立ったのですね。
プログラミングや画像作成の様子を実際に拝見
し、集中している皆さんの姿がとても素敵に感じました。
ありがとうございました。

学生インタビュアーの感想

今回のインタビューに参加した大熊葵月君(九州大学2年生)
インタビューという形式で賀村さんから貴重なお話をしていただきました。今考えてみると、会社の社長さんから直接お話を伺うという経験自体が初めてでした。

その中で一番印象に残っているのは、社会を体系的に捉えていらっしゃるということです。労働人口は減っていくのに、やらなければならないことは増えていく一方。そのため、働くことができる人を増やす必要がある。障がい者の方が働けるようになることはその問題を解決する1つの方法だとおっしゃっていたからです。
お話を伺う前は、働き手のない障がい者の方に仕事をあげるという慈善活動の一環と捉えていました。しかし、実際にお話を伺い、実際に障がい者の方が働いているオフィスを拝見させていただき、そうではないことに気づきました。MacのデスクトップでHTMLやCSSを使ってWebサイトをコーティングしていたり、デザイン設計をしていたり、それぞれの方がパソコンに向かってそれぞれの仕事に集中していました。受動的に教えられたことをやるのではなく、能動的に自分たちで働かれていました。

賀村さんは、その方たちが「自分自身で壁を越えてくれた」ことに感謝している、とおっしゃっていました。ITという分野で活躍されている賀村さんの視座の高さに感銘を受けました。

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WANメンバー八田鈴菜さん(西南学院大学4年生)
私は、大学で社会福祉を学んでおり、実習や見学で福岡の障がい者さんの働く事業所はいくつか訪れたことがあります。事業所というと、焼き菓子やお弁当の製造・販売などを行う活動が一般的です。その上、生産活動から利益を結びつけることは難しい、というのが実際です。ですから、ITという特殊な事業を行いつつ、確実に利益を生み出しているカムラックさんには驚きました。

しかし一番驚いたのは、賀村さんはもともとIT業界でさまざまなキャリアを積まれた方で、福祉を学んでこられたわけではない、ということです。ITという1つの道を進み続けた経験があってはじめて新たな道を開拓することができたのです。これは賀村さんにしかできないビジネスだと感じました。

また、カムラックさんは障害を抱えたメンバーさんの就労支援事業だけでなく「みんなの困ったを解決する事業」を行っています。インタビューでは、「する仕事と、しなくていい仕事」という言葉を繰り返しおっしゃっていました。例えば、カムラックさんは芸能関係のお仕事もしています。毎週アイドルのライブやイベントがひっきりなしに行われるため、運営側の社員は、自身の持っている仕事に加え、グッズの発注や在庫確認、生写真の編集に追われることになります。しかしそれは本来、運営がするべきことではありません。そこでカムラックさんではそれらの仕事を請け負うことで、運営側が企画や営業などの本来「するべき仕事」だけに集中できるような体制づくりをしているのです。

皆さんも仕事がいつの間にか溜まっていたという経験はありませんか?そのようなときは自分の仕事を、「自分がすべき仕事」と「自分がする必要のない仕事」の2通りに分けてみてください。すると、自分がどこに携わるべきなのかがはっきりしてくるはずです。選択し、必要なものをピックアップする大切さを知っている賀村さんだから、思いつくビジネスなのかもしれません。

(メンバーさんが手掛けたイラスト)

(作成した広告が新聞に掲載)

(事業所の様子)
(複数のパソコンを駆使し、プログラミング中)

賀村社長、ありがとうございました!

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